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環境への悪影響は300倍
 "Still or Sparkling?"

 ロンドンのレストランにおいて、テーブルに着席するや否や真っ先にウエイターから聞かれる言葉だ。つまりミネラル・ウォーターを、炭酸なしにするか、炭酸入りにするか聞いているのである。日本のようにお冷やが自動的に出てくるわけではないので、ロンドンナーたちは、スタイリッシュにデザインされた 750mlのボトルで、レストランによっては約3.50ポンド(約800円近く)もするミネラル・ウォーターを注文することを余儀なくされる。この高飛車なレストランのスタンスに、価格の面からだけでなく、今ロンドンを席巻する"エコ・フレンドリー"な切り口で一石を投じたのが、ロンドンを代表する地方新聞「イヴニング・スタンダード」だ。「Water on Tap(タップとは、水道水のこと)」と銘打ち、水道水を積極的に飲もうというキャンペーンを紙上やwebで展開、大きな話題になっている。

キャンペーンが広がっていく様子を刻々とリポートする、イヴニング・スタンダード紙の紙面。一般のレストランのみならず、ロンドン市内の美術館内のカフェ・レストランでも、「Water on Tap」を掲げたという記事(上)。セレブリティー・シェフたちからのバックアップも大きな追い風に(下)

イヴニング・スタンダード紙は、発行部数26万部を誇るロンドン唯一の夕刊紙。ここ数年は、ロンドン市内にある中小規模の小売店をサポートするキャンペーンや、やせ過ぎのファッション・モデルについてディベートを促すキャンペーンを実施したりと、社会的なムーブメントを喚起させる強い論調で、大きな影響力を持つ媒体としてロンドナーに定評がある。そして今年2月からスタートしたのが「Water on Tap」だ。英国で消費されるボトル入りミネラル・ウォーターは年間30億本、その15%以上が海外から輸入されたものと言われている。その輸送で、およそ3万3200トンの二酸化炭素が排出されるらしく、これは英国6000万世帯の年間のエネルギー消費量相当に換算されるという。

「Water on Tap」キャンペーンに賛同するレストランに配布されているスティッカー。現在、ロンドンを中心とした英国内のレストラン約150軒が参加している。事実、ロンドンの水道水の質の高さについては特別調査が行われ、有名ワインマガジンの編集長やソムリエたちの折り紙付き

キャンペーンスタート当時、ロンドン市長だったケン・リビングストーン氏も、「ボトル入りミネラル・ウォーターは水道水に比べて価格が500倍、環境への悪影響は300倍。南半球からの輸入ブランドもあり、これにより二酸化炭素が無駄に排出されている。ボトル入りミネラル・ウォーターの使用量を減らせば、気候変動問題の対策になる」と、「Water on Tap」キャンペーンを大きく後押し。さらに、「人々はレストランで水道水を頼むことを気まずく思う必要はない」と公言した。この元市長のバックアップが大きな追い風となり、今では、ミシュランの星を冠するレストランをはじめ、スターバックスなどの大手コーヒー・チェーン店、国会や地方議会、ロンドンの美術館に至るまでキャンペーンに賛同している。

水の大切さを啓蒙する、
個性的なエコ・レストラン

ナチュラル・シンプルをコンセプトとした、店内のインテリア。コンクリート打ちっぱなしの天井には、水力を利用した最新の空調システムが設置されている

「イヴニング・スタンダードのキャンペーンが、ロンドン中に広がっていることをとても嬉しく思う」と語るのは、今年2月に東ロンドンのリージェント運河沿いにオープンした「ウォーター・ハウス・レストラン」のシェフ、アーサー・ポッツ・ドーソン氏。'06年の秋に、エコ・フレンドリーかつエシカル(倫理的な)を標榜した画期的なレストランとしてオープンし、レストラン業界の注目を一身に集めた「エイコーン・ハウス」の2号店だ。

店内にはウォータージャグに入れられた水道水がおかれている。こちらは無料

アーサーは1号店のオープン時からレストラン内で水道水を飲むことを奨励、水差しに入れられた水道水は日本同様無料。また、最新のフィルタリング・システムを使い水を浄化、それをレストランのオリジナル・ボトルに入れて提供している。これ以外にも「ウォーター・ハウス」での水へのこだわりは脱帽ものだ。調理はガスでなく、すべて再利用可能な水力発電を使った電気調理器を使用。レストランの横を流れる運河の水を使ったヒートポンプで空調システムを作動させているのだそう。「現代に生きる私たちは、もっと水について真剣に考えるべきだと思う。無駄にするなどもってのほかだし、いい水をできるだけこの地球に温存させなければいけない。人間が生きていくため必要なもの、また栄養が豊富に含まれた美味しい農作物をつくるのは"水"。20世紀は石油の時代だったが、21世紀は間違いなく水の時代になる」と熱っぽく語るアーサー。ディナーは必ず事前の予約が必要なほどの人気をみせるという。ウォーター・ハウス・レストランに託された彼の水へのパッションは、ロンドンナーたちの間に間違いなく広がりつつあるようだ。

Evening Standard
イヴニング・スタンダード
「Water on Tap キャンペーン」

Water House Restaurant
ウォーター・ハウス・レストラン
10 Orsman Road
London N1 5QJ
Tel. 020 7033 0123
www.waterhouserestaurant.co.uk


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