Deep Learning /
囲碁の世界チャンピオンがコンピューターに負けるという事件が、今年の三月に起こりました。人工知能の開発が新しい段階に入り、そこに、ディープラーニングという言葉がありました。

人工知能(=AI:Artificial Intelligence)への挑戦は、人間のように考えるプログラムをいかにして作るか。難問です。 例えば、初めて見た自動車でも、あなたはそれが自動車だとすぐにわかるでしょう。一方で、生まれたばかりの赤ちゃんがみれば、それが自動車だということは分からないでしょう。 この認識力の差は、人工知能の重要なテーマです。

初めて見る鉄の塊を自動車だとわかる認識力は、いかにして獲得されたのか。それをどのようにプログラムにするのか。それを理解するために、もう一つの例をご覧いただきたいと思います。 皆さんは左にスマートフォンがあって、右に(だいぶ使い込んだ)キーボードがあるとお分かりだと思います。しかし、プログラムがこれを理解するのは極めて困難でした。


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スマートフォンとキーボードをそれぞれ認識するプログラムを作るには、「形が四角いもの」「表面にボタンみたいなものが並んでいる」「表面がガラス」等のような特徴を見分ける方法をプログラムに書いて、実行して分類してゆけばよい、と考えるかもしれません。しかし、それでは未知の自動車は到底分類できません。人間の認識力は陳腐な言語的分類をはるかに超えて柔軟だからです。

最新の人工知能では、小さい子供に教えるように、写真を見せて「これはスマートフォンだよ」と伝え、別の写真を見せて「これもスマートフォンだよ」と教えます。プログラムは、それらの映像がなぜスマートフォンなのか、その見分け方を自分で考えます。映像から得られる様々な特徴から、判断する手順を自ら作って行くのです。

ディープラーニングでは、与えられた画像を「スマートフォンである」と認識する行程が多層にまたがる複雑なものになります。学習とは認識する行程そのものが改良されることです。学習が進むほどにスマートフォンの特徴やバリエーションを掴んでいきますが、認識の仕組みはいよいよ複雑になり、もはや人間には理解不能です。

ディープラーニングによる認識力の向上が人間の理解不能な領域に到達できることを証明したのが、AlphaGoの勝利です。囲碁の最善手を学習することで得た「よくわからないが有効な」認識力が、囲碁の本質を体得して、世界チャンピオンのイ・セドル氏を破ったのです。